三味線の歴史 知識 正しい選び方
その操縦性と面白さとその応用の広さとのために、江戸時代に至って広く国民の間に普及し、今日では国民楽器の代表として、広く世界に認められるに至っています。
江戸時代には音楽の間に、厳格なる制限が行われていて、雅楽は貴族に、能楽は武家に、箏曲は盲人に、尺八は虚無僧に限定されていました。そこで広く民衆の手に委ねられてたものは、唯一三味線に限られていました。
しかも江戸時代250年間、国民はこの唯一の三味線に対して研究に研究を重ね、技巧に技巧を積んで、実に驚くべき精巧緻密な楽器にしたのです。
【天神(てんじん)】・・・三味線の最上部で上棹を差し込んだところから上の部分。以前はこれを海老尾(えびお)と言っておりましたが、現在では「乳袋」から上を総称して「天神」といっております。天神の中に以下の名称があります。
《甲(こう)》・・・天神の上部の丸く盛り上がった部分。
《月形(つきがた)》・・・天神の最尖端。三日月のように曲がったところ。
《磯(いそ)》・・・天神の上部の湾曲した側面部分。
《畔(あぜ)》・・・糸巻きを差し込む枠。
《糸倉(いとぐら)》・・・畔と畔との空間。糸巻きで糸を巻くところ。
《乳袋(ちぶくろ)》・・・糸倉のすぐ下。女性の乳のふくらみに似ているところから付けられた名称。
《袴腰(はかまごじ)》・・・乳袋の上部。男性の袴の腰板に似ているところから付けられた名称。
《サワリ溝(さわりみぞ)》・・・糸倉の下部で上棹の先端。
【棹(さお)】・・・通常、棹とは天神の月形から中木先までを指しますが、時には乳袋から鳩胸までを言うこともあります。
【継手(つぎて)】・・・棹を継ぎ合わせているところ。
【上場(うわば)】・・・棹の平面。糸の乗るところ。
【鳩胸(はとむね)】・・・棹の一番下。胴の付け根の上で、鳩の胸のような格好をしているところ(長唄、小唄など)。
民謡、地唄、津軽は鳩胸にはなっていません。
【猿尾(さるお)】・・・鳩胸の裏側で、猿の尾のような感じからつけられた名称。
【中木(なかぎ)】・・・下棹に直結して、胴の中を貫通している細い棒状。(中子とも言います)
【中木先(なかぎさき)】・・・音緒をつけるため、胴より先へ出ている棹の部分。
【経口(きょうぐち)】・・・皮を糊付けする部分。皮は経口部分のみで接着されます。糊は餅粉を水で練ったものを使用します。
【仮継(かりつぎ)】・・・棹、継手のホゾを保護するためのもの。(棹を分解した際に継手を保護するキャップのようなものです)
三味線の種類は、「太棹三味線」「中棹三味線」「細棹三味線」に大別することができますが、さらに種目や流派などによって使用する撥の大きさや重さ、材質、音階、音質などが異なります。また、個人の好みや曲目によっても異なる場合があります。
三味線を選ぶ際、種類が多いのでどのような三味線を購入したらよいのか分からない方は、和楽器市場までお問い合わせください。
なお、それぞれの用途と特徴は、以下のとおりです。
太棹三味線(津軽)
用途:民謡の伴奏・津軽三味線・浪曲
特徴:吉田兄弟が演奏しているのがこの津軽三味線で、全国的に最も人気のある三味線です。棹が太く、全体的に大きいのが特徴です。
深く重みのある音色でかなりの大音量を奏することができるので、迫力のある演奏が可能です。屋外での演奏で、最も映えます。
「弾く」というよりも、撥で「叩く」というイメージ。
中棹三味線(民謡・小唄・地唄)
用途:民謡の伴奏(民謡三味線) 琴との合奏用(地唄三味線)
特徴:民謡三味線は民謡の伴奏として使われます。東さわり付で音色の響きが美しい。
地唄三味線は琴や尺八、胡弓との合奏用に改良された三味線。琴を習われている方は地唄三味線を使用いたします。
響きと色のある音で、音量調節はあまりできない。
「弾く」と「唄う」の調和が最もとりやすい。
小唄三味線は撥を用いず爪で弾きます。これを「爪弾き」といいます。曲は軽快で早いテンポで唄われます。
細棹三味線(長唄)
用途:長唄等 (三味線入門用楽器として多く使用されています)
特徴:長唄は今から三百年以上前の十八世紀初めごろに歌舞伎の音楽として成立し、主に江戸で発展してきた三味線音楽です。全体的に小ぶりで、棹が最も細く、軽く乾いたような透明な音色がいたします。
また、学校教材用や三味線入門用楽器としても多く使用されていますので、これから趣味として
独学で始められる方はこの長唄三味線の花林材をオススメいたします。
弊社が使用する皮はプロ御用達の最高品質の皮になります。
全国でも技術力の高い数社しか仕入れることの出来ない希少品です。(弊社を含め関東圏の数社しか仕入れることが出来ません)
皮の最大の特長は皮の繊維の強さです。三味線の心臓部でもある皮は、破ける寸前の限界点まで張ることで音色を最大限に引き出しますが、皮の質、張りの強さで音色が大きく左右いたします。
左図で解説いたしますが、張りの強さ(張力)を数字の1~10で表すとします。弊社が使用する皮は、皮の繊維が非常に強いため数値の10まで引き伸ばすことが可能ですが、他社の皮ですと繊維が強くないので数値の8ほどまでしか皮を伸ばすことが出来ないのです。
数値の8では三味線の音色を最大限には引き出せませんし、これ以上皮を引っ張ると繊維が弱いために破けてしまいます。この限界点の差が「皮の差」になりますので音色にも大きく左右いたします。弊社でも他社の皮を過去に使用したことがありますので、この差は非常に大きいのです。もちろん、数値の10まで張り上げることは誰でも出来る技ではありません。
皮は一枚一枚厚さも違いますし、その一枚の中でも微妙に厚みが違います。これを四方向に均等に引っ張っていくわけですが、これが至難の業なのです。
数値の8を超えるあたりから皮の伸ばし方が少しでも狂ってくるとその時点で破けてしまいますので、数値の9、そして10まで皮を引き伸ばすには相当な技術と神経を使います。
弊社ではこの皮張りの技術は大変得意としている技術のひとつですので、三味線の音色を最大限に引き出すことが可能なのです。
三味線は非常に奥が深く、デリケートな楽器ですので、このような技術が兼ね備わっていないと三味線を最大限に生かせないのです。
弊社の三味線が多くの方から高い評価をいただいている理由は、品質はもちろんですが、全国屈指の皮張り技術があるからこそなのです。
紅木材の原木、作業風景・・・
墨付けから仕上げまでは、各材質とも同じですが紅木原木に対する墨づけは特に難しく、棹に巻かれるあの綺麗な 「トチ」は、この墨付けの技術いかんによって「トチ」がよく出たり、また少なくもなるので最も重要な作業です。 木取りされた荒木は、半年以上自然乾燥させたものを使用します。
↑紅木材(原産地:インド) |
↑木取り前の紅木材 |
↑胴の花林材(原産地:タイ) |
↑木取りされた胴 |
↑棹を三つに切断。 |
↑継ぎ手、ホゾ作業が完了し、 |
↑木取りした棹を匠が手作業で |
↑完成後の胴。
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↑ご注文後に糸巻きを仕込みます。
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↑ご注文後に三味線に適した皮を厳選し、 |
花林材(お稽古用)初級用として使用されます。 花林材は主にタイで産出されます。 |
紫檀材 中級品 紫檀材は主にタイで産出されます。 ※紫檀財は三味線の中では中級品として位置付けられていますが、一時期ブームになりました「二胡」の中では紫檀材は高級品として位置付けられております。 |
鉄木材 中上級品 鉄木はガーナやナイジェリアの密林に分布しており、非常に重く硬いのが特徴です。 |
紅木材(演奏会用) ※和楽器市場が使用する紅木材について |
三味線の選び方と技術について お客様の中で最も問い合わせが多いのは「今から三味線を始めるのですが、どの程度の三味線を買えばいいのでしょうか?」という内容です。 |
最近はインターネット上(オークション等)で中古三味線も多く出回っておりますが、中古三味線は皮が傷んでいたり、棹のねじれ、糸巻きの調整不能、ハの高さの狂い、カンベリ修理の繰り返しで棹が細くなっていたりと、購入額よりも修理代が高くついたり、使い物にならなかったりと中古三味線を購入された方から不満の声をよく聞きます。 三味線などの非常にデリケートな楽器は、1厘の狂いもなく精巧に作られた新品の三味線に、優秀な職人の技術で皮を張ることで美しい音色を奏でることができます。 三味線、琴等の和楽器は精巧に作られていることと、技術が全てでございます。 「安かろう悪かろう」では絶対にいけないのです。 技術がなければ質の良い楽器でも音は絶対に鳴りません。三味線では主に皮張り技術、琴は糸締めの技術、楽器の音を最大限に引き出すのが職人のこの「技術」でございます。特に三味線は皮の質と張りの技術で音が決まります。お客様の中で「他店で高価な三味線を購入したが音質があまり良くない」と言ったご相談をお受けいたしますが、これは皮の質と強く張れていないのが主な原因です。最高の張りの技術は表面と裏面との皮の厚さ、張りの強さのバランスを考えながら、いかに強く張れるかですが、この技術が非常に難しいのです。 弊社では創業80年という長年の経験で培ってきた職人の質の高い技術がございますので、品質、音質には絶対的な自信がございます。 |
新品三味線 |
中古三味線 |
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棹の状態 | 正常 |
・長年の糸のテンションにより棹が通常よりも反っている ・棹がねじれている ・勘所が減っている ・カンベリ修理の繰返しで棹が細くなっている ・継ぎ手が抜けやすい ※メンテナンスをしても棹のねじれや細くなっている棹を元の状態に戻すことは物理的に不可能です。 |
糸巻き | 正常 |
・調整の繰り返しで短くなっている ・緩くて止まらない ・調整不能の為、交換の必要性がある |
糸巻き金具 | 正常 |
・糸巻き調整の繰り返しで金具が薄くなっている ・金具が古くなっている場合、糸巻きを新品に交換しても不安定な場合がある ・金具を新品に交換するとなると高額 |
下がり |
正常 |
・長年の糸のテンションにより、胴の下がりが狂って、棹表面と糸の感覚が開きすぎて弾き難い。 |
ハの高さ ※下図で説明 |
正常 |
・カンベリ直し修理の繰り返しなどでハが高くなっている場合がある。 ・ハが高くなって棹表面と糸の感覚が開きすぎて弾き難い。 ・購入後に修理が必要になる。 |
胴 | 正常 |
・四隅に隙間があったりする ・長年の使用で全体的に傷んでいる |
皮 |
厳選した皮を ご注文後に張ります。 |
・皮の繊維が傷んでいる ・皮が緩んでいる ・皮が剥がれかかっている ・皮張りの繰り返しで、皮の端の部分が深くなっていて見栄えが悪い |
このような方にお勧め |
【新品三味線】 ・精巧な作りの三味線をお求めの方 ・これから本格的に始められる方 ・長く楽器を愛用したい方 ・買換えをご検討の方
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【中古三味線】 ・長く続くか自信のない方で、新品よりも極力安価で購入したい方。 注】メンテナンス済みの中古三味線の失敗談もよく耳にしますので、中古三味線をご検討の方は十分ご注意ください。 |
「下がり」と言うのは、棹と胴の仕込をする際に胴の中木先(図の「に」のところ)を「い」、「ろ」、「は」の箇所と平行して、八厘から一分ぐらいまで下げることです。この「下がり」が、三味線の音をよくする重要なポイントの一つなのです。
三味線には必ず「下がり」があるのですが、もちろんそれを知っている人もいらっしゃいますが、「下がりってなんですか?」と尋ねる人もいらっしゃいます。知らなくても新品の三味線は規定に従って作られていますから別に心配はいりません。
しかし中古三味線はこの下がりが狂っていることが多いのです。
「下がり」は、駒によって音を調整するのに重要な役目を持つもので、胴が新しい間はよいのですが、古くなって皮を何度も張り替えますと、胴が低くなり、「ハ」が高くなり、随って棹の「ろ」が高くなって「下がり」が狂ってきます。
図の「い」、「ろ」、「は」に定規を当てますと「に」の箇所が下がっているのが分かります。「下がり」と「ハ」の高さと駒とは特に密接、不離の関係にあり、しかも「下がり」は駒によって「ハ」が生じるわけですから、「下がり」が狂ってきますと、必然的に「ハ」の高さが狂い、音が悪くなるのです。
「ハ」の高さは、三味線胴の「下がり」と駒によって左右されます。一般に「ハ」が高い、低いと言われている箇所は図の矢印のところです。つまり、胴の皮を張った上面と、糸と糸の空間です。
ここの間隔が広くなることを「ハが高い」と言い、弾きにくく、音もぽんついてくるので音に締りがなくなります。
これは胴の「下がり」が狂ってきた為です。
「ハ」の高さは駒の高い低いで変わります。高い駒を掛ければ、当然「ハ」は高くなり音は大きくなります。
低い駒を掛ければ「ハ」は低くなって音は小さくなります。
「ハ」の高さが狂ってきたということは、図の「ハ」の箇所が隙き過ぎてきたことで、棹に狂いがきた時や、カンベリ修理の繰り返しなどでも起こります。
中古三味線はこの「ハ」の高さが狂っていることが多いので注意が必要です。
三味線は湿気(水分)と熱気が禁物です。ですから次の事に注意してください。
1)三味線は動物の皮をのり(餅粉を水で練ったもの)で張りつけております。
他の接着剤では皮を張ることができないからです。美しい音色を出すために皮を限界まで引っ張ってありますから、少しの水分又は熱気でも接着が緩み胴から皮が剥がれてしまいます。
2)三味線の保管は湿気の多いところや熱気のある場所は避けてください。特に直射日光の当たるところは禁物です。
3)熱気の強い車の中では10分間も保てません。(エンジンを切った駐車の場合)
特に夏場の車中ではエアコンを効かせて三味線に熱気を与えないよう注意してください。
4)三味線を弾く場合、膝や腹部の湿気「汗」が裏皮に当たり、胴から皮が剥がれる恐れがありますので特に夏場は汗に注意してください。湿気を吸った場合は乾いた布で擦る様に乾拭きして湿気を蒸発させてください。
5)保存には桐材を使った箱に入れておくことが望ましく、桐芯ケース、桐立箱、桐たんすなどを用います。
我が国に渡来して四百年の伝統を持つ三味線は、その間数多くの先人たちの苦労と知恵によって種々改良を加えられ現在のような立派な日本楽器をして完成されました。わずか三本の糸から弾き出す優れた美しい音色と情感は世界に比類のない素晴らしい「日本の音」であります。
しかし如何に素晴らしい音でも皆様の扱い次第では音色が止まります。
それは三味線は生きものであるからです。
1)三味線の音色は皮の張り方で決まると云われ、職人は皮の限界点「やぶれる寸前」まで張り上げます。
これは高度の技術が必要で、これで職人の真価が問われると云われています。そこでどんな高価な三味線でも皮の厚さ、張り方次第では美しい音色は出て来ません。
2)三味線にはサワリ音と云うものがあり、1の糸より発する振動音「バイブレーション」が正しい音を発生しなければなりません。サワリがついているか、いないかで三味線の音は生きもし、死にもします。
サワリが良くついている場合には独りでに音に余韻が生まれ、曲は生き、映え、聴く者をして陶酔の境地へ誘うことができます。ですから触りは三味線にとって一番大切です。
では良いサワリとは一本調子の余韻ではだめです。例えて言いますと、波が押し寄せてくるような余韻(ガーアン、ガーアン、ガーアン)このようなサワリが良いサワリです。
この良いサワリがつきますと、2の糸、3の糸に共鳴して素晴らしい音に変わります。
3)三味線は3本の糸だけで美しい音を出しますから、その糸が古くなったり、伸びきったり、糸が毛羽立っていると美しい余韻は生まれません。新しい糸は十分な弾力を持っており、これが美しい音を生み出します。稽古用でも糸が切れるまで使うことは避けましょう。
4)三味線は皮の張り方で音に関係があると申し上げたように皮が緩んでくると美しい音色が出ません。その時は駒の位置を下のほうに下げてみてください。それでも変化がない場合は皮が緩んでますので時期をみて音色が落ちてきたら張り替えるようにしましょう。
5)三味線は生きものと申し上げましたように永く弾かずにおきますと音色が止まります。
急に美しい音色を要求しても無理です。人間でも発生練習をしなければ良い声が出ないのと同じです。
6)楽器に対していつも愛情を持って丁寧に取扱い、常に使用するよう心がけます。
弾いている間は音もよく鳴り、皮が振動し、空気に触れますので、皮が破けることも少ないのです。弾かずにしまっておくことは楽器の為によくないことであり、皮が破けたり、胴から剥がれるのはこの状態の時によく起こります。
胴は、安い花林棹から紅木の高級品に至るまですべて花林材を用います。木として木質が柔らかく、音調を出すのに最も適しているからです。胴には丸打胴と綾杉胴がございます。綾杉胴とは音質効果を高めるために胴の内側に綾杉彫りをを施してあり、一本綾杉と子持綾杉の2種類ございます。子持ち綾杉は一本綾杉の上に更に一本綾杉を彫ったもので、子持ち綾杉の方が更に音質効果を高めます。花林や紅木の並物には丸打胴を、紅木金細等の高級品には綾杉胴がつけられます。※和楽器市場の金細三味線の綾杉胴はすべて子持ち綾杉胴です。
※胴に関しては接着剤は膠(ニカワ)ではなく、高性能な化学接着剤を使用しております。
膠の特長としては、非常に高い接着力がありながら、熱を与えることで接着面を容易に分解することができますので、棹の接着剤としては向いています。しかし胴の接着剤としてはあまり向いていません。
なぜかと申しますと、皮を張る工程の中で胴を温めるからです。
皮を張る際には皮を張りやすく、、また伸びやすくする為に皮自体に湿しを入れます。
皮を湿した状態で作業を進めていくのですが、最終工程の際に皮に熱気を与えて水分を短時間で飛ばします。膠は熱に弱いですので、この時に膠の成分は壊れて接着力が弱まるのです。この作業を繰り返せば当然少しずつ接着力は弱まり、皮を張っていることで常に強いテンションが胴にはかかっていますので、何れは胴の四隅に隙間が生じてきたり、胴がバラバラになったりと不都合が生じてきます。
高性能な化学接着剤がなかった時代は、すべて膠を使用しておりましたが、このような症状を防ぐ為に今では高性能な化学接着剤を使用しているわけです。
すべての接着面に膠を使えば良いという訳ではなく、膠が適している箇所には膠を、高性能な化学接着剤が適している個所には高性能な化学接着剤を使用することが三味線にとっては最も大事になります。
※平ほぞ
一本のほぞだけで、溝がなく、稽古三味線の花林棹が平ほぞになります。
※一枚溝
一本のほぞに平行して溝が作られ、二級品に施されます。
※二枚溝
一本のほぞの両側に、二本の溝が作られて、棹の継目を安定させる
もので、高級品に施されます。
金細とは、三味線の最高級品を表現した名称で、トチの入った紅木棹の
継手に、金の金具を埋め込んで仕込みます。
(弊社の紅木材の三味線はすべて二枚溝になります。)
※サワリとは音を鳴らしたときに「ビーン」というカラオケで例えるとエコーのようなものです。
倍音成分を増やして音色に味を付け、響きを延ばす効果があります。
東サワリは主に民謡三味線や津軽三味線などに用いられます。長唄、地唄、小唄三味線などはこの東サワリは付いておりません。東サワリは裏のネジを回し、芯を上下させ一の糸に触れさせてサワリの均衡を保ちます。
民謡三味線や津軽三味線に東サワリが付いていないと本来の音質がいたしません。
長唄三味線や地唄三味線、小唄三味線などはサワリ溝に一の糸を触れさせてサワリを付けます。
サワリ音を綺麗に付けないと伸びのある音色がしないので、サワリ音は慎重かつ丁寧に調整して最大限にサワリ音をつける必要があります。調弦をする上で最も大事です。
・・・上駒の形状について・・・
東サワリが付いている三味線と付いていない三味線の上駒の形状が異なります。
東サワリ用の上駒は1の糸、2の糸、3の糸すべてが上駒の上に乗りますが、東サワリが付いていない三味線は1の糸は直接木に触れされてサワリ音を発生させますので、2の糸、3の糸のみ上駒の上に乗ります。たまにお客様から「1の糸の部分の上駒が切れてなくなっている」や「上駒の幅が短い」、「1の糸だけが上駒の上に乗っていない」などの問い合わせがありますが、東サワリなしの三味線の上駒はこれが正常です。
糸巻きはすべてが六角で、材質は、黒檀、象牙、紅木などですが、座金との密着がいいので、どの三味線にも黒檀が最も適します。
黒檀の糸巻きには(寿六)と(面取り)があり、(寿六)の糸巻きは六角そのままで、糸の巻き上げに手が滑らないため糸巻きとしては上々です。「面取り」は六角のかどを取り丸くした糸巻きです。他に宇柄や宇柄面取りなどの形状もございます。
象牙の糸巻きは舞台では”ヒン”がよくてよいものですが、よほど仕込みを上手にし、中に押し込むようにして回さないと戻りがちです。
(戻るというのは、弾いているうちに糸巻きが独りでに緩み、一挙にカラッと糸が戻ってしまうことです)
これは、象牙の生地が堅くて、黒檀などのように座金に馴染まないためです。
紅木の糸巻きは座金に当たる部分は、黒檀の糸巻きと同じで、それ以外のところは芯を残して、それに紅木を六角に張り合わせ(面取り)したものです。
その他に、アクリル(クリスタル)や象牙調(合成樹脂)などもございます。
左写真のように糸蔵(内側の木の部分)にピッタリと糸が付いた状態だと、糸巻がそれ以上金具の中に入り込まないので、糸巻が緩みやすくなります。必ず右写真のように少し隙間を開けて調弦を完了させてください。
◆皮の重要性について
皮の重要性についてご説明いたします。
三味線の命ともいえる箇所が皮です。皮質、張り方などで音質は大きく変わりますので皮は非常に重要な役割を持っております。三味線の品質が素晴らしくても皮の質、皮張りの技術が伴ってないと、いくら品質の良い三味線でもよい音色は絶対に鳴りません。
皮張りの技術は、一枚一枚違う皮の厚さ、質を見ていかに強く張れるかということです。
弊社では今まで幾社もの皮を使用してきましたが現在使用している皮が最も良い音の鳴る皮でございます。この最高品質の皮は皮張り技術の高い全国で数社の三味線店のみが仕入れることのできる皮で、弊社もその中の1社でございます。
[皮の種類]
猫皮「四つ」、犬皮、合成皮。
◆皮の裁ち方
猫皮(四つ)は、背から裂いて、左右に拡げて仕上げますから、乳が出ます。乳は(上四つ)と(下四つ)にわかれます。(上四つ)とは皮の上部、(下四つ)とは皮の下部を言い、どっちが良いかというと(上四つ)のほうが、皮の厚みが平均していてよいのです。(下四つ)のほうは、皮の厚みにむらがあります。基本的に(上四つ)は表皮に、(下四つ)は裏皮にします。
※弊社は裏面四つ皮にも「上四つ」を使用しております。
犬皮は(けんぴ)は猫皮とは逆に、腹から裂いて、左右に拡げて仕上げますので、猫皮と違って乳がないのです。
◆猫皮と犬皮はなぜ音が違うのか?
猫と犬の皮の音の相違でまず挙げられる原因は
1)猫と犬の体の大きさの違い。
2)毛質の違い
3)毛の密集状態の違い。
が考えられます。
体の大きさの違いによって、皮の厚さが違ってきます。皮の厚みが厚ければ音は重く、厚みが薄ければ音が軽くなるのは当然です。毛質の違いは犬の毛のように太ければ、毛穴は大きく、音の発散がよ過ぎて、音の震動率は早く弱まります。
毛穴が細ければ細いほど、音の発散が遅く、胴内に於ける音の震動率は長く維持されるわけです。
毛の密集状態の違いは、皮のきめがいい(細い)、悪い(荒い)の違いで、根本は毛質が違うのと同じことですが、毛質が太ければ、毛穴が大きいのは当然で毛穴が大きいということは、皮のきめが荒いことです。猫の毛質は細いので毛穴も細く、皮のきめがよいのです。
このことが猫皮と犬皮の音の違いですが、猫皮の場合は、その毛穴が細いゆえ、そこを音が通過する際、皮にデリケートな震動を与え、それによりに柔らかい音色となって現れてくるのです。
四つ皮は長唄、民謡、地唄三味線の高級品に、犬皮は中級、初級用に主に使われます。
しかし、津軽三味線の場合は高級三味線でも犬皮を使用いたします。
当店では皮屋から品質の良い一番皮を優先的に仕入れています。上質で繊維の強い皮を、他社にはない当社独自の紐掛け技術と作業工程により、皮を均等に限界まで張り上げ、三味線の音色を最大限に引き出します。
「安かろう悪かろう」ではいけません。当店では一切妥協のない皮の選定と、一切手抜きのない張替え作業により、全国のお客様から高い評価をいただき、高いリピート率を実現しております。
三味線の皮は音色の生命線でもあり、最も重要な役割を果たします。
良質な皮を職人の技術によって最高の状態で張り上げることにより、三味線の持っている音色を最大限に引き出すことができます。
弊社では最高品質の皮を長年の経験で培ってきた技術で丹精込めて張り上げ、お客様の三味線の音色を最大限に引き出します。
注)三味線の音色を最大限に引き出すのは「極上皮」に限ります。
皮の張りの状態(強さ)は、三味線屋によっても違いますし、雨天、晴天によっても音は変わりますので、微妙な音の調整まで追及される方は、駒の合わせ方によって最終的な音の調整をしなければなりません。例えば皮の張りが緩い場合は、軽い駒を掛けて、その駒を音緒寄りに若干移動させることによって、締まった音になります。
逆に、皮の張りが強い場合、晴天のために皮が乾燥してしている場合は、少し重めの駒を正しい位置に掛けるか、或いは駒を図のように胴の中央寄りに若干移動させて音の調子をいたします。
但し、駒の位置を移動させることによって勘所を割り出す標準距離(上駒と駒糸道までの距離)が変わることで、勘所(つぼの位置)も若干変わりますので、その点は演奏の際には注意してください。
撥を当てるところは、勿論、撥皮の貼られているところですが、撥を当てるその箇所の少しの違いでも音にかなりの変化があります。図の点線は胴の経口(きょうぐち)の厚みを表し、撥皮上の黒点(3箇所)は変化する音の位置の表示です。
図の左黒点の箇所に撥を当てて弾きますと、音は小締めとなり、遠音はしません。これは胴の経口の上で弾くからです。象牙の撥先が欠けるようなことは大抵この箇所で弾いた場合です。
中黒点の箇所は、胴の経口を避けた、経口と胴空間の際です。ここで弾きますと、澄んだ、そして締まったよい音がします。
右黒点の箇所は左黒点、中黒点よりも音が大きく、弾き方によっては皮の音もして、いやな音となります。それは経口より大分離れて胴の中央に向かっているからです。太鼓の場合を想定してみても分かることですが、太鼓の際の部分を叩いては太鼓本来の音は出ません。太鼓は皮の中心を打ち、皮に響かせて大きな音を出すことが生命です。この太鼓の理屈と同様で、三味線で右黒点の箇所のような、胴の中心寄りに向かったところでひきますと、むやみと音ばかりが大きくなって、よくありません。
左図のように、響くところを3箇所挙げましたが、左黒点の箇所は音が締まり過ぎて響かず、右黒点は皮に響き過ぎて音が大きく、結局中黒点の箇所が、皮の音も適当で、冴えて、流儀により若干の差はあるでしょうが、一般的に一番よい音のするところと言えます。三味線の練習をされる方は、常に中黒点の箇所に撥が当たるような弾き方の習慣をつける事が肝要です。
※津軽の場合は他の三味線と違い、撥を前後させて音の強弱をつけます。
弊社は創業90年というこの業界の中でも長い歴史を持っておりますが、現在はこの和楽器業界は昔のような活気はございません。
また、和楽器は2004年頃から学校の音楽の必須科目となり、以前のような活気が戻ってくるのではと業界内では楽観視しておりましたが未だに限定的です。
どうすれば三味線や琴を始めてくれる人が増えるのか、どうすれば昔の活気を取り戻せるのか・・・
ある業者さんは「無料体験レッスンをすればいいのでは」や「学校などでの講習などを増やせばいいのでは」等さまざまな意見がありました。
いろいろな意見がある中で弊社の結論は「楽器が高すぎる」ということに至りました。
やはり三味線や琴を習いたくても楽器の購入がネックとなり断念してしまう方も多いのではないでしょうか?しかし、楽器の価格を下げることは容易なことではない・・・
弊社が価格を大幅に値下げをしたのはインターネット販売を開始してからですが、それまでには次のような経緯がございました。
通常、「客数が多い(売り足が早い)と利幅は低く(低価格)、売り足が遅いと、利益率は高く(高価格)」という原則があります。
弊社では以前は地元のみでの販売を行っておりましたので他店と同様、売り足が遅い分、利益率を高く設定し高価格にて三味線や琴を販売しておりました。
もちろん三味線や琴は伝統工芸品でもありますので、その価値は高いです。
しかし、「楽器が全国的に高すぎる」、これでは絶対に和楽器業界は廃れていくと感じておりました。
弊社がインターネットでの販売を始めたのは今から約10年ほど前になりますが、販売地域が全国に広がった為に多くのお客様からご利用いただくようになり、今までよりも利幅を大幅に低く設定することが出来るようになりました。お客様には本当に感謝の一言です。
今でも地元のみで営業している和楽器店は売り足が遅い分、以前と変わらず利益率を非常に高くしている為に高価格なのです。
ただ、利幅を大幅に低く設定出来るようになったとはいえ、ここまで価格を下げる必要はあるのかと考えた時期もありましたが、少しでも多くの方に和楽器に触れていただき、その良さを分かっていただきたい、そして次の世代にその良さを伝えていただきたい、そうすれば以前のような活気が戻ってくるかもしれない、そう考え思い切って大幅な値下げに踏み切りました。
「楽器が高くて始められない」、「教室の月謝が高くて続かない」という時代ではなく、以前よりも楽器が安く入手でき、入門書やDVDなどでいつでも簡単に独学でも始められる時代になったように思います。これもまた弊社をご利用いただいているお客様のお蔭なのです。
今では楽器だけでなく付属品なども低価格販売を行っていることで同業者からの批判も非常に多いのですが、弊社では全国の多くのお客様に少しでも喜んでいただけるよう日々努力し、和楽器業界が以前のような活気を取り戻し、そして多くの方にその良さを分かっていただけるよう今後も低価格販売を続けて参ります。
そして邦楽界が少しでも以前のような活気を取り戻してくれれば幸いです。